003:荒野
大地は干からびて、植物はすべて枯れてしまっている。
動物がいるような気配もなく、動くものといえば風に吹かれる砂のみ。
なぜ、自分がこんなとこにいるのか。
なぜ、他に誰も居ないのか。
そんな疑問が胸に浮かんだが、その答えは自分のどこを探しても見つからなかった。
それと同時に自分がこの場所で何をすべきなのかもわからない。
しかし、僕は迷うことなく足を踏み出していた。
見えるものと言えば、荒れ果てた大地だけ。
岩山や砂丘さえ見えやしない。
なのになぜ、僕はこんなにもまっすぐに歩いていけるのだろう。
道標すら、いや、道すら無きこの地を。
まっすぐただ歩いている。
時計はないし、太陽すら見えないからどれくらい時間が経ったのか分からない。
空腹は感じない。喉の渇きも。
だが何か足りない。
そう思った瞬間、僕は初めて恐怖を感じた。
この何もない、果てすらないように見える大地に一人でいることに気づいた時さえ恐怖を感じなかったのに。
僕は気付いてしまった。足りないものを。
ただひとつ失ってはならないものを。
でも、もう遅いのだ。
もう戻っては来ないのだ。
僕の意思に関係なくただまっすぐ進んでた足は、どこへ行くべきか迷ってしまった。
どこに行っても無駄だと分かってしまった。
自分の手のひらに当たる水滴に気付き、自分が泣いていることに気付いた。
水滴はとどまることなく、僕の手を濡らし、僕はとうとう膝を折ってしまった。
暫くすると、自分の頭部に小さな雫が降ってきた。
その雫はやがて大粒になり、僕の全身を濡らしていく。
水溜りを打つ雨の音が、自分の鼓膜を打つのを僕は自覚していただろうか。
やがて、雨はやみ、日差しが大地を照らす。
遠くに見え始めた緑はそのうち、僕の足元まで来るだろう。
理解できないことが起こっていたが、僕には気にならなかった。
たったひとつの事実が、未だに僕の足をとどめたままだ。
すべてが戻ってこようとしているこの世界に、たったひとつ戻らないものを僕は知っている。
今、土をかきむしっているこの手は自分のものなのだろうか。
喉が鳴っているのに、声として僕の耳に届いてこない。
すべてをなくしてもよかったのに。
僕のすべてに代えても構わなかったのに。
ただひとつ以外なら。
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