023:パステルエナメル
「うし、できたっ!」
いっしょうけんめい何かをやっていたなつめが声を上げたので、僕も読んでいた本から顔をあげた。
大体この部屋に充満する匂いから何をしてたかは察しは着いているが、一応聞いてみる。
会話のとっかかり、ってやつだ。
「何してたの?」
「へへ〜、マニキュアvv」
見ると、なつめの色はきれいに色を変えていた。
得意げに見せているが、たしかにきれいに塗れている。
「なんて色?」
「パステルエナメル」
「パステルエナメル?」
聞きなれない名だったから、聞き返してみた。
「うん。象牙色」
「象牙・・・」
また、想像のつきにくい色だ。
「いいでしょvv」
そう言ってなつめは自分の爪を見ている。
マニキュアっていうのは、淡いピンクやブルーとかかわいい色か、赤みたいなキツイ色を塗るもんだと思ってた僕は、想像だにしなかった色に
「落ち着いた色だね」
と返した。
「うん。大人っぽくない?」
なるほど。そういう狙いなのか。
その色が大人っぽいのかどうかの判断は着かなかったが、とりあえず肯いておく。
僕にはよくわかんないけど、これが大人っぽいものだとしたら、こうやってなつめは少しずつおとなっぽさを身に着けていくのかもしれない。
少しずつ少しずつ僕の知らない顔を持っていくのかもしれない。
そんなことをふと思って、なつめの身体をきゅっと後ろから抱きしめた。
別に怖くなったわけじゃない。
ただ寒くなっただけだ。
「?しょーた?どしたの?」
唐突な行動を不思議に思ったのだろう。
なつめが僕を見ようとするが、僕はそれをさせなかった。
「なつめはここにいる?」
言葉にしてから、あまりの情けなさにもっと顔を見せれなくなってしまった。
なつめはどう受け止めるべきか迷ったのだろうか、んー、と考えた様子を見せた後、
「いる」
とやけにはっきりした答えをくれた。
寧ろ焦ったのは僕だ。
「え?いるの?」
とこれまた情けないうろたえっぷりを発揮してしまった。
怒り出すかと思ったなつめは、緩んだ僕の腕から抜け出して僕の目をまっすぐみた。
まじまじと僕の顔を見た後、
「ここに、いる」
ともう一度応えてくれた。
そして僕を抱きしめてくれた。
ずっと、という安易な約束も、いつまで、という制約もない言葉は多分真実だ。
なつめの背中に腕を回しながら、僕はもう少しなつめに甘えることにした。
「なつめ」
「ん?」
「もすこし、このままでいていい?」
「いーよ」


「ここにいる」
それが僕らの真実。






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