062:オレンジ色の猫



彼女が猫を拾ってきた。
猫の名は「オレンジ」。
理由を聞いてみたけれど「ヒミツ」と言って教えてくれなかった。
確かに少し明るいが、かといってオレンジ色には程遠い茶色の毛。
覗いてみたら、僕の影で黒い瞳孔が大きくなった瞳。
傍でオレンジジュースを飲んでみたり、買ってきたオレンジを剥いてみたりしたもののまったくといっていいほど興味を持った様子はない。
そんな風にイロイロ試してみてる僕を面白そうに見てる彼女。
「別にね そんな特別なことじゃないの」
なんて言われたって納得できない僕は、ついつい猫の後をついていってしまう。
さらに面白そうに僕の後をつける彼女。
1匹と2人縦一直線になって彼女の部屋から出る。

彼女のアパートは、坂の途中。
狭い坂道と階段が家並みをつないでいる。
アパートを出る猫の後をついて僕も外に出た。
もうすぐ夕暮れだ。
猫と僕と彼女の影が長くアスファルトに伸びる。
猫はそのまま隣りのアパートの塀に登ってしまった。
塀の上をてくてくと歩く。
さすがにその後ろを歩くわけにはいかないから、塀の横をとことこ歩く。
彼女も僕の横に並んで、今度は横一線の1匹と2人。
途中でひょいっと捲かれるかと思ってたのだが、意外にも猫は僕らの横を歩き続けた。
傍から見たら妙な光景だっただろう。無言で歩く2人と1匹。
そんな光景で歩き続けること15分ほど。
右手に公園に続く階段が見えてきた。
「こんなとこまで来たんだね」
と彼女がアパートを出て初めてしゃべった。
その言葉が分かったわけじゃないんだろうが、猫が塀を下りて公園に続く階段を上りだした。
「「あ」」
慌てて2人で追いかける。
長い長い階段を猫は軽やかに上ってく。
運動不足の僕らは突然な運動に息も切れ切れだ。
「…オレンジ!」
彼女が堪らず猫を呼んだ。
にゃーお
1番上まで上った猫はこちらを振り返り一声鳴いた。
その声に僕は俯きがちになってた視線を上げた。
「…オレンジだ」
「……あー、バレちゃった」
走ることをやめた彼女が後ろから笑い混じりに言う。
猫の後ろに見事な夕焼けが見える。
夕日の色が明るい茶色の毛を照らして、まるで猫の毛がオレンジ色のように見えた。
猫を見上げたままの僕を追い越して、彼女は一番上の段に座り込んだ。
猫は彼女の腰に寄り添って座りこっちを見ている。
「バレちゃったねぇ、オレンジ」
どこか嬉しそうな声で彼女は猫に話しかける。
「しょうがないから、ちゃんとヒミツを教えてあげよっか?」
猫に話しかけてるように見えて、明らかに僕に話しかけてるのだろう。
「ヒミツ?」
「そう。ここで、あたしとオレンジは出会ったの」
運命の場所なんだよねー。
逆光で見えないが、きっと笑っているのだろう。
そんな彼女の髪も光に透けてオレンジ色だ。

「そんなとこに突っ立ってないで早くおいでよ」
にゃーお
オレンジ色の猫と彼女が僕を見て笑った。









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